イヤホンに49万5,000円――。FitEarの新たなフラグシップ「Lilior Universal(リリオール・ユニバーサル)」に付けられた価格です。数字だけを見れば、さすがに一歩引いてしまう人も多いでしょう。
しかし、その作り手を知ると少し見え方が変わってきます。手がけるのは、プロ向けカスタムIEMブランド「FitEar」を展開する須山歯研。国内のステージモニターでは長年にわたり実績を積み重ねてきたメーカーです。
そんなFitEarが、コンシューマー向けの新たなフラグシップとして2026年8月8日に発売したのがLilior Universalです。6基のBAドライバーと4基のESTドライバーによる計10ドライバー構成に加え、耳内の圧力をコントロールするDEC製アンビエントフィルターを採用。価格は495,000円(税込)という、まさにハイエンドと呼ぶにふさわしい有線ユニバーサルIEMです。
興味深いのは、これだけ贅沢な構成でありながら、目指しているのが分かりやすい「派手さ」ではないこと。FitEarが掲げるコンセプトは「派手さでごまかさない実在感」。高価なイヤホンだからこそ刺激的な音を演出するのではなく、音楽や声を自然に、そこにあるものとして感じさせる方向を追求しています。
この記事では、公開されている製品情報や各媒体の試聴レポートをもとに、Lilior Universalの技術的な特徴や495,000円という価格の背景、そしてどのような人に向いたイヤホンなのかを整理していきます。購入はもちろん、試聴を検討している方もぜひ参考にしてみてください。
スペックと発売情報
国内の販売と流通はアユートが担当し、直販EC「アキハバラe市場」のほか、e☆イヤホンやフジヤエービックといった専門店で購入できます。8月12日時点では掲載店すべてが495,000円の横並びで、値引き競争は起きていません。Amazonでの取り扱いも今のところありません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 製品名 | FitEar Lilior Universal(リリオール・ユニバーサル) |
| 型番 | FTE-LILIOR-UNI |
| 発売日 | 2026年8月8日 |
| 価格 | 495,000円(税込) |
| 形式 | カナル型ユニバーサルIEM(有線) |
| ドライバー構成 | ハイブリッド10ドライバー(6BA+4EST) |
| ドライバー内訳 | 低域:Sonion 3800U×4/中域:Sonion G90×2/高域:Sonion製新型EST×4 |
| アコースティック機構 | Dynamic Ear Company(DEC)製アンビエントフィルター |
| 付属ケーブル | FitEar cable 007B4.4(4.4mm5極バランス) |
| 付属イヤーピース | AZLA SednaEarfit ORIGIN |
| 同梱品 | ペリカン1010ケース、メッシュポーチ、ケーブルクリップ、クリーニングブラシ |
| カラー | ミスティパール |
| 保証 | 1年(本体) |
| 感度・インピーダンス・質量 | 非公開 |
表を作っていて手が止まったのは、最後の行です。感度・インピーダンス・質量といった電気的スペックが、どの公式情報にも載っていません。数値から駆動のしやすさやDAPとの相性を推し量れないので、手持ちの環境との組み合わせは店頭試聴で確かめる前提になります。付属ケーブルが最初から4.4mmバランスなのは、いまのハイエンドDAP事情に合わせた構成といえます。
10ドライバーでも「多ドライバーの音」を目指していない
ドライバー構成は、低域にSonionの新型BA「3800U」を4基、中域に同じくSonionの「G90」を2基、高域に新型EST(静電型)ユニットを4基。片側10基、左右合わせて20基という、数字だけを見ればかなりの物量です。
ここで用語を簡単に整理しておきます。BA(バランスド・アーマチュア)は補聴器にも使われてきた小型ドライバーで、省スペースながら繊細な音を描きやすいのが特徴です。一方のESTは、薄い振動膜を静電力で駆動する方式で、超高域の伸びや微細な余韻、空気感の表現を得意とします。ハイエンドIEMでは、こうした異なる特性を持つドライバーを組み合わせ、それぞれに得意な帯域を担当させる設計が広く採用されています。
10ドライバーと聞くと、物量で押し切るような設計にも見えます。しかし、FitEarはもともと多ドライバー化に慎重なメーカーでした。ドライバーを増やせば、それだけ位相の乱れや音色の不統一が生じる要因も増えるため、帯域分割をできるだけ抑えた少ドライバー構成を志向してきた経緯があります。
そのFitEarが、従来の思想を保ったまま10ドライバーへ踏み込んだのがLilior Universalです。デンマークのSonionと試作や技術交流を重ね、目標とする音響特性から逆算して、クロスオーバーネットワークやアコースティックチューブの長さを決めていったとされています。
狙いは、ドライバーの数を使って音を派手に演出することではありません。各帯域の解像度を高めながら歪みを抑え、複数のユニットを意識させない一体感を作ること。BAで感じられることのある硬質な響きや、ESTで生じやすい音像の薄さを抑え、低域から高域までをひと続きの音色としてつなげる方向です。
各ドライバーの役割も明確です。低域を担当する3800U×4は、単純に低音の量感を増やすためではなく、並列駆動によって1基あたりの負担を抑え、振幅に余裕を持たせるための構成。中域のG90はボーカルを中心とした質感表現を担い、高域のEST×4が余韻や空気感を補います。
つまり、「10ドライバー」という数字から想像する派手さと、実際の設計思想はむしろ逆方向です。多くのドライバーを積んで個性を強調するのではなく、多くのドライバーを使いながら、その存在を感じさせない自然な音を目指している。ここがLilior Universalの設計で特に興味深いところです。

DECアンビエントフィルターが解く「密閉型の宿命」
本機いちばんの独自要素は、ドライバーの数ではありません。フェースプレート端にあるグレーの円形パーツ。この内部に、オランダDynamic Ear Company(DEC)製のアンビエントフィルターが収められています。

カナル型イヤホンは、イヤーピースで外耳道を塞いで音圧を稼ぐ構造です。その代償として耳の中の空気が閉じ込められ、振動板が動くたびに空気圧の変化が鼓膜へ直接かかります。長く着けていると耳が疲れる、音がこもって感じる——カナル型を日常的に使っていれば、覚えのある感覚だと思います。私自身、作業用イヤホンを半日着けた日は、外した瞬間の解放感で「耳に負担がかかっていたんだな」と実感するタイプです。
アンビエントフィルターは、この閉じ込めを構造から緩めます。外耳道と外部環境を音響的に接続して、耳の中の空圧を適正に保つ仕組みです。音響インピーダンスが下がることで鼓膜が本来の自由さで動けるようになり、ドライバー側もより低歪みで動作できる環境が整う、という理屈になっています。
単に穴を開けるのとは違います。ただのベント(通気孔)は周波数バランス、とくに低域を崩しがちですが、DECのフィルターは音のバランスを保ったまま外音を適度に取り込み、閉塞感だけを逃がす設計です。謳われているのは、密閉型の解像度と音圧はそのままに、開放型ヘッドホンに近い自然な音場と装着感を両立するという、いいとこ取りの構図です。
試聴レポートが揃って指摘する「普通さ」
私はまだ実機を聴けていないので、音の評価は各媒体の試聴レポートの整理にとどめます。ただ、複数のレビューがほぼ同じ方向を指しているのは、それ自体がひとつの情報だと思います。
AV Watchの試聴特集は「イヤフォンの個性が消え、音楽だけが残る」と題して、特定の帯域を強調しない万能ぶりを評価しています。第一印象は「極めて普通」に聞こえるのに、編成が複雑な曲を聴き進めるほど情報量と歪みの少なさが効いてくる、という論調でした。フジヤエービックのスタッフレビューも、豊かなベースラインと快適な装着感を挙げています。
帯域ごとの評も傾向が一致しています。低域は膨らませず、ベースの弦の震えからサブベースの沈み込みまで俊敏に追う。中域は輪郭を強調せず、声の温度感と倍音を自然に描く。高域はESTらしい伸びやかさで、シンバルのアタックを刺さりなく出す。どれも「何かを盛っている」方向の褒め方ではないわけです。
ジャンルの相性についても触れられています。DECフィルターの効果で音が頭の中に押し込められず、楽器同士の距離感やホールの響きが前後に広がるため、クラシックのような編成の大きい音源で真価が出やすいという評価です。一方で、モニター的な音にありがちな乾いた無機質さはなく、ジャズやポップスのボーカルも温度感を保ったまま鳴らすとのこと。「分析的なのに冷たくない」というバランスが、各レポートに共通する読後感でした。
従来のFitEarや他社ハイエンドと並べると、狙いの違いが見えてきます。
| 観点 | 高域・低域強調型のハイエンドIEM | FitEarのプロ用モニター | Lilior Universal |
|---|---|---|---|
| 音作り | 強調による解像感の演出 | 中域の密度とボーカルの近さ | 帯域強調を排した自然描写 |
| 耳内の圧力 | 完全密閉で閉塞感が出やすい | 完全密閉・高遮音 | DECフィルターで適正化 |
| 音場 | 左右の分離感が中心 | 密閉的でダイレクト | 開放型に近い広がり |
| 長時間使用 | 刺激が強めで疲れやすい | モニター用途のタイトさ | 疲れにくさを構造で狙う |
プロ用モニターの延長ではなく、「音楽を心地よく聴き続ける」ためのリスニング機として組み直したのが本機の立ち位置です。ステージで音を確認するための道具と、家で音楽に浸るための器。同じFitEarでも、役割がはっきり分かれています。
本機が掲げる「忠実な描写」は、オーディオの世界で古くから「Hi-Fi(ハイファイ=高忠実度)」と呼ばれてきた価値観そのものです。ハイレゾとの関係も含めて、次の記事で整理しています。
495,000円の内訳をどう読むか
正直、絶対額としては高いです。ただ、構成を見ていくと価格の出どころは追えます。
まずドライバー。Sonionの新型BAと静電型ESTを片側10基、両側で20基積んでいます。静電型ESTは搭載機がまだ少ない高価なユニットで、それを4基ずつ使うだけで部品原価は大きく跳ねます。そこにDECフィルターを活かすための筐体・気流設計の開発コスト、須山歯研のハンドクラフトによる仕上げが乗る構図です。シェルの「ミスティパール」は光でパール粒子が発色する新開発色で、このあたりの造形はカスタムIEMメーカーの面目躍如といったところです。
付属品も値段なりに揃っています。4.4mmバランスの「FitEar cable 007B4.4」、AZLAのSednaEarfit ORIGIN、耐衝撃のペリカン1010ケース。買ってから買い足すものが、ほぼ見当たりません。

それでも「49万5,000円は妥当」と言い切るのは乱暴でしょう。この価格が意味を持つのは、ジャンル特化の高額機を複数使い分ける代わりに、1台で全部を済ませる「終着点」として見た場合です。色付けの強いハイエンドを渡り歩いてきた人が最後に落ち着く器という設計思想で、だからこそ「普通の音」であることに価値が置かれています。逆に言えば、ここに乗れない人には割高なだけの買い物になります。
実際、個性の強い高級イヤホンには「この曲のためだけに使う1本」になりがちな面があります。ロック用、クラシック用、ボーカルもの用。気づけば10万円台の機種が3本、4本と増えていく。そういう買い方をしてきた人なら、合計額がこの機種1台分に近づいていく感覚には覚えがあるはずです。万能な1台に集約するか、個性を複数抱えるか。Lilior Universalの価格は、前者を選ぶ人向けの値付けです。
実売はまだ動いていません。価格.comでは8月12日時点で掲載全店が495,000円の横並びです。動きがあるとすればキャンペーンのほうで、フジヤエービックが8月31日まで、対象製品の下取りで5万円OFF(実質445,000円)になる買い替えキャンペーンを実施しています。手持ちのハイエンドからの乗り換えなら、実質的な値引きとして効く内容です。
気になるポイント
ユーザーレビューがまだ出揃っていない
発売は8月8日。価格.comのレビューとクチコミは、8月12日時点でどちらも0件です。媒体の試聴レポートは好意的ですが、AV Watchの特集はスポンサード記事でもあります。49万5,000円の買い物なら、ユーザー側の声が積み上がるのを待つ選択肢は十分ありです。
電気的スペックが非公開
感度・インピーダンス・質量が公開されていないため、手持ちのDAPやアンプで鳴らしやすいかを数値から判断できません。10ドライバー機は筐体も大きくなりがちなので、装着感も含めて店頭試聴がほぼ必須と考えたほうがよいです。
遮音性は完全密閉型に譲るはず
外音を適度に取り込む構造である以上、遮音性を完全密閉型と同じ土俵では期待しにくいはずです。通勤電車や飛行機で外の音を消したい用途が主なら、ノイズキャンセリング機や密閉重視のIEMのほうが向きます。どの程度外音が入るかは、これも試聴で確かめたいポイントです。
買える場所が限られる
Amazonや家電量販店では扱いがなく、購入はアキハバラe市場・e☆イヤホン・フジヤエービックなどの専門店経由になります。近くに試聴環境がない方には、このハードルがいちばん効いてくるかもしれません。
どんな人に向くか
| こういう人 | 判断 | 理由 |
|---|---|---|
| 色付けの強い高級機に疲れた | 本命 | 帯域強調を排した設計そのもの |
| 長時間リスニングで耳が疲れやすい | 本命 | DECフィルターが圧迫感を構造から緩和 |
| クラシック・ジャズ・アコースティック中心 | 有力候補 | 倍音と空間の自然な描写に強み |
| 迫力の重低音や華やかな高域が欲しい | 合わない | 演出を盛らないコンセプト |
| 移動中の遮音を最優先したい | 他を検討 | 外音を取り込む構造 |
| 初めての高級イヤホン | まず試聴 | 「普通さ」の価値は聴き比べ経験があるほど刺さる |
軸になるのは「音に何かを足してほしいか、引いてほしいか」です。演出を求めるなら、同価格帯にはもっと個性の立った選択肢がいくらでもあります。逆に、機材の個性を減らして音楽そのものに近づきたいなら、本機の設計はまさにそのために組まれています。
もうひとつの軸は装着時間です。1日の大半をイヤホンと過ごすデスクワーカーにとって、耳圧の緩和は音質と同じくらいの実利があります。「密閉型は疲れるから家では開放型ヘッドホン」という使い分けをしてきた人ほど、この構造は刺さるはずです。
よくある質問(FAQ)
- Q発売日と価格は?
- A
2026年8月8日発売で、価格は495,000円(税込)です。8月12日時点では取扱店すべてが同一価格で、値引きは出ていません。
- QカスタムIEMのように耳型を採る必要はありますか?
- A
ありません。カスタムIEMで培った知見をユニバーサル筐体に落とし込んだモデルで、そのまま装着できます。イヤーピースはAZLA SednaEarfit ORIGINが付属します。
- Qアンビエントフィルターとは何ですか?
- A
オランダDynamic Ear Company(DEC)製の音響フィルターです。外耳道と外部を音響的につないで耳の中の圧力を適正化し、周波数バランスへの影響を抑えながら閉塞感を軽減します。
- Qワイヤレスでは使えませんか?
- A
使えません。有線専用で、4.4mm5極バランスの「FitEar cable 007B4.4」が標準付属します。
- QAmazonで買えますか?
- A
2026年8月12日時点でAmazonでの取り扱いはありません。アユート直販「アキハバラe市場」、e☆イヤホン、フジヤエービックなどの専門店で購入できます。
- Qお得に買う方法はありますか?
- A
フジヤエービックが2026年8月31日まで、対象製品の下取りで5万円OFF(445,000円)になる買い替えキャンペーンを実施しています。条件の詳細は同店の案内をご確認ください。
まとめ
「イヤホンの音」を作り込むのではなく、イヤホンの存在を消しにいった機種です。10ドライバーは派手さのためではなく歪みと過不足をなくすため、アンビエントフィルターは密閉型が長年抱えてきた耳内気圧の問題を構造から解くため。すべての技術が「自然さ」という一点に向いています。
- 発売日は2026年8月8日、495,000円(税込)。取扱は専門店のみで、8月12日時点では全店同一価格
- 6BA+4ESTの10ドライバー。Sonionとの共同開発で、狙いは派手さではなく全帯域の統一感
- DEC製アンビエントフィルターで耳内の圧力を適正化。密閉型の解像度と開放型的な音場・装着感の両立を狙う
- 各媒体の試聴評は「帯域強調のない自然さ」で一致。ただしユーザーレビューはまだ0件
- フジヤエービックで8月31日まで下取り5万円OFFのキャンペーンあり
「終着点」という言葉は安易に使いたくありませんが、この機種は珍しく、設計思想そのものが終着点を狙って組まれています。いろいろな高級機を経験して、そろそろ上がりの1台を決めたい方。長時間のリスニングで耳の疲れに悩んできた方。そういう方にこそ、候補に入れる意味があります。
現時点での評価
49万5,000円という価格を前提に、公開情報と各媒体の試聴レポートから少し辛口で採点します。
- 音質(期待値):★★★★☆ 4.5(6BA+4EST、媒体評は「全帯域の自然さ」で一致。実機は未確認)
- 快適性・装着感:★★★★☆ 4.5(DECフィルターによる耳圧適正化。個人差は試聴で)
- 技術的独自性:★★★★★ 5.0(Sonion共同開発ドライバー+DECフィルターの組み合わせは他にない)
- 付属品・完成度:★★★★☆ 4.0(007B4.4・SednaEarfit ORIGIN・ペリカン1010と抜かりなし)
- コスパ:★★★☆☆ 3.0(絶対額は最上級。「終着点」需要に限れば筋は通る)
- 総合:★★★★☆ 4.0
私自身、SONY XBA-A3で1万円超えイヤホンの世界に足を踏み入れてから10年以上、e☆イヤホンでの聴き比べを習慣にしてきました。正直、49万5,000円は「良さそうだから買う」で済む金額ではありません。それでもLilior Universalは、久しぶりに試聴の予定を立てたくなった1台です。密閉型の常識をひとつ外した音場と装着感がどんなものか、まずはお近くの取扱店で耳から確かめてみてください。

