W数の大きい充電器に替えても、スマホが急速充電できないことがあります。USB-Cの充電器を選んでいると、「USB PD対応」と並んで「PPS対応」という表記をよく見かけますが、何が違うのかは説明されないまま、W数の大きさだけで選んでしまいがちです。
USB-C同士でつながっているのに、なぜ速くならないのか。答えの半分は、PPSとは何か、USB PDと何が違うのかにあります。
この記事では、USB PDとPPSの意味を規格団体 USB-IF の資料で確かめたうえで、スマホ各社がどちらを求めているか、充電が遅くなる原因がどこにあるかを整理します。後半では、私の手元の充電器1台とスマホ2台を公式仕様で突き合わせてみました。ぜひ最後までご覧ください。
USB PDとPPSとは|電圧を「選ぶ」か「細かく指定する」か
USB PD(USB Power Delivery)とは、充電器とスマホやパソコンがUSB-Cケーブルを通じて会話し、どの電圧・電流で給電するかを決める規格です。充電器は「5V、9V、15V、20Vを出せます」といった候補を示し、受け取る側がその中から選んで要求します。規格を定めているのは USB-IF(USB Implementers Forum)で、従来の USB PD は20Vを使った最大100Wまででした。
PPS(Programmable Power Supply)は、USB PD の中にある給電のしかたの一つで、Revision 3.0 で加わりました。USB-IF の技術資料によると、PPS では出力電圧を20mV刻み、電流の上限を50mA刻みで調整でき、受け取る側は少なくとも10秒ごとに電圧と電流を要求し直します。決まった段から選ぶのではなく、スマホの側が充電の状態に合わせて電圧を細かく指定し続ける仕組みです。
正確には、PPS は USB PD の一部です。この記事で「PDとPPSの違い」と言うときは、USB PD の固定電圧(固定PDO)と PPS の違いを指します。
ざっくり言えば、固定電圧が「用意された段のどれかを選ぶ」方式なら、PPS は「その場で必要な電圧を注文する」方式。電圧を細かく合わせられるので、一般に、スマホ側で電圧を変換するときのロスや発熱を抑えやすいと説明されます。

PD 3.1 の「240W」や AVS とは別の話
似た話に、2021年に発表された USB PD Revision 3.1(PD 3.1)があります。こちらは電力の範囲を広げた拡張で、従来の最大100W(SPR)に加えて、最大240W(EPR)を定めました。EPR では固定電圧に28V・36V・48Vが加わります。
同じ版で加わった AVS も電圧を調整できる方式ですが、刻みは100mVで、PPS の20mVとは別物です。いまは100W以下の範囲で AVS を載せた充電器もあり、USB PD 3.2 対応の Google 67W 充電器は、PPS と AVS の両方を仕様に書いています。スマホの急速充電で「PPS」と言うときは、PD 3.0 で加わった PPS を指していると考えてください。なお、USB PD の最新版は Revision 3.2 で、2026年9月に Version 1.2 が公開されています。
引用: https://support.google.com/pixelphone/answer/16496481?hl=ja
種類を整理|スマホで関わるのは「固定電圧」と「PPS」、そしてメーカー独自規格
USB PD は規格全体の名前です。スマホの充電で主に関わる給電のしかたは、固定電圧(固定PDO)と PPS の2つ。メーカー独自の急速充電は、USB PD の外側にある別の仕組みです。
| 項目 | 固定電圧(固定PDO) | PPS |
|---|---|---|
| 電圧の決め方 | 5V・9V・15V・20Vなどの段から選ぶ | 充電器が示す範囲の中で、端末が20mV刻みで指定 |
| 加わった版 | 初期から | Revision 3.0 |
| 使われる場面 | ノートPC・iPhone など幅広い | Pixel がおすすめの充電方法に挙げ、Samsung の純正45W充電器も対応 |
※ USB-IF の資料と各社の公式情報より。電力の範囲(SPR/EPR)と AVS は、前の節の補足を参照してください。
引用: https://www.usb.org/usb-charger-pd
引用: https://www.usb.org/document-library/usb-power-delivery
スマホ各社の公式情報を見ると、どの方式を求めているかがはっきり分かれます。
| 対象 | 公式に確認できる内容 | そこから判断できること |
|---|---|---|
| Google Pixel(端末の案内) | 「おすすめの充電方法」として、定格30W以上の PPS 電源アダプターと、定格15W以上のほかの USB PD アダプターを挙げる | PPS 非対応でも、15W以上の USB PD アダプターは使える選択肢。ただし最大の速度は機種と充電器の組み合わせによる |
| Samsung(純正45W充電器の仕様) | 「Super Fast Charging 2.0 max. 45W」「PD 3.0 PDO/PPS max. 45W」 | 純正45W充電器は固定電圧と PPS の両方に対応。Galaxy 端末側の条件は機種ごとに確認が必要 |
| Apple iPhone(端末の案内) | Apple 製アダプタか、USB-PD を使える他社製アダプタ。PPS への言及はなし | USB PD の固定電圧で高速充電できる。PPS は条件に入っていない |
| OPPO Find X9 Ultra(日本版の端末仕様) | 「最大100W SUPERVOOC™ / 50W AIRVOOC™ / 55W PPS」。固定電圧での対応電力は記載なし(グローバル版は18W PD) | 最速は独自の SUPERVOOC。USB PD の充電器では、PPS の55Wが公式の上限 |
※ 各社の日本向け公式サポート・製品ページより(2026年9月23日時点)。
引用: https://support.google.com/pixelphone/answer/7106961?hl=ja
引用: https://www.samsung.com/jp/mobile-accessories/45w-power-adapter-black-ep-t4511xbegjp/
引用: https://support.apple.com/ja-jp/102574
引用: https://www.oppo.com/jp/smartphones/series-find-x/find-x9-ultra/specs/
同じ「USB-Cの急速充電」でも、各社が挙げる充電器はそろっていません。スマホごとに公式の案内を見るのが近道です。
急速充電できない・充電が遅いときは、方式の組み合わせを3か所で確かめる
W数の大きい充電器でも速くならないとき、まず確かめたいのは次の3か所です。
- 充電器: スマホが求める方式や W 数に届いていない。独自規格が本命のスマホに USB PD の充電器をつないだ場合や、PPS 対応でも電圧・電流の範囲が合わない場合など
- ケーブル: 流せる電流が足りない。USB-C ケーブルには3Aまでのものと5Aまでのものがあり、5Aを流すには「e-marker」という識別チップを内蔵したケーブルが必要です
- スマホ: そもそも受け入れられる電力の上限が低い。iPhone SE(第3世代)なら、Apple は20W以上のアダプタで30分最大50%としています
ケーブルは見落とされがちです。USB-IF は、認証済みの USB-C ケーブルに「60W」「240W」の表示ロゴを付ける仕組みを用意しています。Google も、自社の30W充電器について、3Aを超える出力には定格が3Aを超えるケーブル(5AのE-Marker内蔵ケーブルなど)が必要だと案内しています。充電器とスマホが対応していても、ケーブルが3Aまでなら、そこが上限になります。
引用: https://support.google.com/pixelphone/answer/11224459?hl=ja
引用: https://www.usb.org/cable_connector
方式が噛み合っていても、充電が遅くなる場面はあります。Google は、端末とバッテリーの温度を管理するために充電を自動で調整することや、高温になるとバッテリー保護のために充電を一時停止することを案内しています。一般に、残量が多いとき、充電しながら使っているとき、充電の最適化やバッテリー保護の設定が働いているとき、複数ポートで出力が分けられているときも、速度は落ちやすくなります。

手元の機器で考える|充電器1台とスマホ2台を公式仕様で照らし合わせる
ここからは、私の手元にある充電器とスマホで考えてみます。充電器は仕事場で使っている Anker Prime Wall Charger(100W・3ポート)。スマホは OPPO Find X9 Ultra と iPhone SE(第3世代)の2台持ちです。
100Wで解決したのは、ノートPCの給電警告だった
私が100Wの充電器を選んだのは、スマホのためではありません。会社から貸与されているノートPCが、ワット数の足りないアダプタをつなぐと「給電できません」といった警告を出すタイプだったからです。100Wに替えてからは警告が出なくなり、ノートPC・会社のスマホ・キーボードを1台でまとめて充電できています。
Anker の公式ページには、USB-C ポートの出力として5V・9V・12V・15V(各3A)と20V・5A(最大100W)が並んでいます。私の手元で起きたのは、最大20V・5Aに対応する充電器に替えたところ、警告が出なくなったということです。ノートPCが実際にどの電圧・電流で受け取っているかは、計測していないので分かりません。
Find X9 Ultra にとっては、付属のアダプタが本命
では、PPS はどうか。Anker の製品ページには PPS の記載がありませんが、取扱説明書の仕様には「PPS対応」と書かれています。ただし、PPS で出せる電圧と電流の範囲は、どちらにも載っていません。
引用: https://lp.ankerjapan.com/hubfs/aoos/manual/A2343Manual.pdf
Find X9 Ultra の日本向け公式仕様は「最大100W SUPERVOOC™ / 50W AIRVOOC™ / 55W PPS」です(AIRVOOC はワイヤレス充電)。付属品は80W の SUPERVOOC アダプタと USB Type-C ケーブルです。最大の急速充電は OPPO 独自の SUPERVOOC によるもので、PPS では55Wまでとされています。日本の公式ページには固定電圧での対応電力の記載がなく、グローバル版の仕様ページには「18W PD」とあります。
引用: https://www.oppo.com/en/smartphones/series-find-x/find-x9-ultra/specs/
つまり公式仕様を並べる限り、私の Anker Prime 100W は SUPERVOOC には当てはまらず、PPS で55Wまで出るかは公開仕様からは判断できません。55Wに必要な PPS の電圧と電流の範囲を満たすかが、どこにも書かれていないためです。100Wの充電器だからといって、このスマホを100Wで充電できるわけではありません。なお、私は計測器を持っていないため、実際の充電速度は測っていません。ここでの比較は、公式仕様を並べた範囲の話です。
Find X9 Ultra を急いで充電したいときは、付属の80Wアダプタとケーブルを使うのが公式仕様に沿った選び方です。OPPO は「SUPERVOOC対応ケーブル」も別売りしているので、アダプタだけでなくケーブルも付属品か対応品を使うのが確実です。なお、OPPO は「低電圧環境では最大80W対応となります」とも注記しています。
引用: https://www.oppo.com/jp/product/oppo-usb-a-to-type-c-supervooc-cable.P.P1100904
iPhone SE(第3世代)には、100Wは大きすぎる
iPhone SE(第3世代)は、Apple が、20W以上のアダプタを使えば30分で最大50%まで充電できるとしている機種です。Anker Prime 100W は USB PD の9V・3A(27W)を出せるので、条件は満たします。ただ、100Wの余力はこのスマホには使い道がありません。iPhone SE だけを充電するなら、20W前後の小さな充電器で足ります。
手元の機器を並べてみると、「100W」という数字が効くのはノートPCだけで、スマホ2台にはそれぞれ別の答えがありました。W数は充電器が出せる上限であって、つないだ機器がその電力を受け取れるかは、方式が噛み合うかどうかで決まります。
製品選びでの判断基準|PPSをどう使って充電器を選ぶか
充電器を選ぶときは、W数より先に次の4点を確かめると失敗が減ります。
- スマホの急速充電の条件: まずスマホのメーカー公式で、急速充電に PPS が必要か、何W以上かを確認します。Pixel はおすすめの充電方法として30W以上の PPS と15W以上の USB PD を挙げ、Samsung の純正45Wアダプタは PPS にも対応しています。iPhone は USB PD、OPPO などは独自規格が本命です
- 充電器の PPS の範囲: PPS 対応でも、出せる電圧と電流の範囲は製品ごとに違います。Samsung の45Wアダプタの仕様には「PPS : 5.0-20.0 V」とあります。私の Anker Prime 100W のように範囲が書かれていない製品もあるので、スマホの PPS の W 数に届くかはメーカーに確かめるのが確実です
- ケーブルの電流: 固定電圧の20Vで60Wを超えて給電するには、5A対応(e-marker内蔵)のケーブルが必要です。PPS は電圧が低いぶん、60W以下でも3Aを超えることがあります(たとえば11V・5Aで55W)。USB-IF 認証ケーブルなら「240W」などのロゴで見分けられます
- 複数ポートの配分: 2台以上を同時につなぐと、1ポートあたりの出力は下がります。ノートPCとスマホを一緒に充電するなら、合計出力と配分の表を確認します
ノートPCとスマホを1台で充電したい方
ノートPC用には USB PD の20V・高出力、スマホ用には PPS、と求めるものが違います。両方を1台でまかなうなら、PD の高出力と、PPS の電圧・電流の範囲の両方が仕様表に書かれた充電器を選ぶのが確実です。
この用語が活きる製品例|関連レビュー記事
USB PDとPPSの知識は、充電器を比べるときにそのまま使えます。トータルナビで公開している充電器の記事を、用途別に紹介します。
ノートPCとスマホを1台で充電したい方へ
私が仕事場で使っている Anker Prime 100W と、67W モデルを比べた記事です。ノートPCに必要なワット数の見極め方をまとめています。
手頃な65W充電器を探している方へ
3,000円前後の65W充電器を4社で比べました。仕様表の読み方の練習にもなります。
出力の大きい充電器を比べたい方へ
65W・100W・160Wの違いを整理した比較記事です。
小さく持ち運びたい方へ
サイズ・重さと合計出力の関係を比べた記事です。
よくある質問(FAQ)
- QPPS対応かどうかは、どこで見分けられますか?
- A
充電器の仕様表で「PPS」の表記と電圧・電流の範囲を確認します。「USB PD対応」とだけ書かれている場合は、PPS に対応しているとは限りません。製品ページになくても、取扱説明書に書かれていることがあります。
- QiPhoneにPPS対応の充電器を使っても大丈夫ですか?
- A
Apple は、USB Power Delivery(USB-PD)を使える他社製アダプタでの高速充電を案内しています。PPS 対応の充電器も USB PD に対応していれば、その範囲で使えます。
- Q100Wの充電器でスマホを充電しても、壊れませんか?
- A
USB PD/USB Type-C の規格に準拠した正常な充電器とケーブルを使う限り、100Wが常にスマホへ流れるわけではありません。充電器が示した条件の中から、スマホが対応する電圧・電流を要求します。
- Qワイヤレス充電にもPPSは関係ありますか?
- A
スマホと充電台の間は、Qi・Qi2 という別の規格です。一方、コンセント側の電源アダプターから充電台への給電には、USB PD や PPS が使われる製品もあります。たとえば Pixel Stand(第2世代)の安全ガイドには、PPS に対応した電源アダプターの仕様が載っています。Qi と Qi2 の違いは、別の記事で整理しています。
引用: https://support.google.com/pixelphone/answer/11228000?hl=en
まとめ
USB PDとPPSについて、要点を整理します。
- USB PD: 充電器とスマホが会話して、給電の条件を決める規格。基本は固定電圧(5V・9V・15V・20Vなど)から選ぶ方式で、従来は最大100W
- PPS: USB PD Revision 3.0 で加わった給電のしかた。スマホ側が20mV刻みで電圧を指定し続ける。Pixel はおすすめの充電方法に30W以上の PPS を挙げる
- PD 3.1 と AVS: PD 3.1 は最大240W(EPR)への拡張。AVS は100mV刻みの可変電圧で、PPS とは別物。最新版は Revision 3.2
- 遅いときは3か所を確認: 充電器の方式、ケーブルの電流(3Aか5Aか)、スマホの受け入れ上限。規格が合っていても、温度や残量、使いながらの充電で遅くなる
充電器を選ぶときは、W数の大きさより先に、自分のスマホが公式にどの方式を求めているかを確かめるのが近道です。そのうえで、充電器の仕様表に PPS の電圧範囲があるか、ケーブルが5Aに対応しているかを見れば、「100Wなのに遅い」というすれ違いはかなり防げます。
100Wと聞くと、何でも速く充電できそうに思えます。W数の大きな数字に安心する前に、この記事の4つの判断基準を、手元の充電器とスマホで一度確かめてみてください。






