ゲーミングキーボードの世界では、ここ数年で「磁気スイッチ+ラピッドトリガー」が一気に主流になりました。多くのメーカーが全キーを磁気アナログスイッチに置き換えた“フルアナログ機”を投入するなか、ロジクールGは「ラピッドトリガー対応キーボードは、本当に全キーをアナログにする必要があるのか?」という問いに、ひとつの現実的な答えを出してきました。
それが、必要なキーだけをアナログスイッチへ自分で付け替えられる新型「G512 X」シリーズです。2026年6月11日に国内発売、ラインナップはテンキーレスの「G512 X 75」(税込32,780円)と、テンキー付き省スペースの「G512 X 98」(税込36,080円)の2モデル。日本語配列で、どちらも標準はメカニカルスイッチという構成です。
この記事では、G512 X 75と98の違い、そして「キースイッチ交換式(デュアルスワップ)」という発想が何を狙ったものなのかを、フルアナログ機との設計思想の差まで踏み込んで解説します。購入を検討している方は、ぜひ最後までご覧ください。



製品スペック一覧
まずはG512 X 75と98の主要スペックを並べて確認しましょう。基本性能は共通で、違いはレイアウトとサイズ・重量・価格に集約されています。
| 項目 | G512 X 75 | G512 X 98 |
|---|---|---|
| 国内発売日 | 2026年6月11日 | 2026年6月11日 |
| 直販価格(税込) | 32,780円 | 36,080円 |
| レイアウト | 75%(テンキーレス) | 98%(省スペースフルサイズ) |
| テンキー | なし | あり |
| 本体サイズ | 330.2×155.2×46.6 mm | 387.2×155.2×46.6 mm |
| 本体重量 | 850g | 1,000g |
| 接続方式 | 有線USB(着脱式180cm) | 有線USB(着脱式180cm) |
| ポーリングレート | 8,000Hz(0.125ms) | 8,000Hz(0.125ms) |
| 検知方式 | TMRセンサー | TMRセンサー |
| キーキャップ | PBT樹脂 | PBT樹脂 |
| カラー | ブラック/ホワイト | ブラック/ホワイト |
| 対応OS | Windows 10以上/macOS 12以上 | Windows 10以上/macOS 12以上 |
価格差は3,300円。これは「テンキーが要るかどうか」と「机の専有面積をどこまで削るか」の差だと考えると分かりやすいです。性能面(センサー・ポーリングレート・キー機構)は完全に同一なので、ゲーム性能を理由に75と98で迷う必要はありません。
なお、表中の「ポーリングレート(8,000Hz)」が具体的に何を意味し、どこまで上げると体感が変わるのかは、以下の記事で詳しく解説しています。本機のスペックを読み解く基礎知識として、あわせてご覧ください。
75と98、どちらを選ぶべきか
選び方はシンプルで、「テンキーを使うか」と「マウスの可動域をどれだけ取りたいか」の2点で決まります。
G512 X 75はテンキーを廃した75%レイアウトで、横幅は330.2mm。キーボードを左に寄せても右側に広いマウススペースを確保できるため、マウスを大きく振るローセンシのFPSプレイヤーに向いています。重量は850gと、有線キーボードとしては重めです。
一方のG512 X 98は、98%レイアウトでテンキーを残しつつ、ナビゲーションキー群を圧縮配置して横幅387.2mmに収めています。数値入力が多い事務作業や表計算と、ゲームを1台で兼ねたい人に最適です。重量は1,000gとさらに増しますが、これはガスケットマウント構造による反響音の吸収と剛性確保のための質量で、安定した打鍵につながっています。

「キースイッチ交換式(デュアルスワップ)」という新発想
G512 Xの核心は、1枚の基板上でメカニカルスイッチと磁気アナログスイッチを混在させられる「デュアルスワップ機構」です。
購入時、全キーにはロジクール独自のMXメカニカルスイッチ(リニアまたはタクタイル)が載っています。これに対し、ラピッドトリガーやアナログ入力が欲しいキー(W・A・S・Dやスペースなど)だけを、同梱の磁気アナログスイッチ9個に自分で付け替えて使う、という運用が前提です。アナログ検知には一般的なホール効果センサーではなく、より高精度に位置を読み取れる「TMR(トンネル磁気抵抗)センサー」を採用。ただし全キーではなく、ゲームで多用する左手側のエリア(75では左寄りの37キー+カーソルの計41カ所)に限定して搭載されています。

この交換作業がよく考えられています。本体裏のチルトスタンド(角度調整用の脚)がそのままキーとスイッチの引き抜き工具を兼ね、本体後部の半透明カバー内には予備スイッチやキーキャップを収納できます。スイッチを差し替えたら本体の「アナログスキャンボタン」を押すだけで、どのスロットにどの種類のスイッチが入ったかを自動認識してくれます。ハンダ付けはもちろん、外部工具すら不要で自作キーボードのカスタマイズ体験を味わえる、ハードルの低さが魅力です。
アナログ化したキーは専用ソフト「Logicool G HUB」で、作動点(アクチュエーションポイント)を0.1mm〜4.0mmの範囲で0.1mm刻みに調整できます。ラピッドトリガーはもちろん、相反する方向キーの同時入力を処理するSOCD(G HUB上は「Key Priority」)にも対応し、ラピッドトリガーと併用できます。さらに同梱の「SAPPリング」5個をスイッチに装着すると、押し込む途中に擬似的な段差(底打ち感)を作れて、「浅く押すと歩く/深く押すと走る」といった2段階アクションを指先の感覚だけで操作できます。
「全キーアナログ」は本当に必要か
ここが本機の最大の論点です。WootingやSteelSeriesに代表されるフルアナログ磁気式キーボードは、全キーに磁気センサーを積むためどのキーでもラピッドトリガーが使える反面、コストが高くなりがちで、メカニカル特有の確かな打鍵感やタクタイルな手応えは犠牲になりやすいという弱点があります。
G512 Xの割り切りは、「ゲームでアナログ入力が決定的に効くのはWASD周辺の数十キーだけ」という実践的な判断に基づいています。反応速度がコンマ数ミリ秒を争わないテンキーやファンクション列はメカニカルのまま残すことで、長時間のタイピングでも確かな打鍵感を維持。同時に、最新のTMRセンサーや8,000Hzポーリングを積みながら、価格を3万円台に収めるコストコントロールを実現しています。海外メディアのPC Gamerはこのアプローチを「大成功」と評し、Gizmodoは本体内に工具やスイッチを収納できる設計とSAPPリングの直感性を高く評価しました。一方でGizmodoは、200ドル近い価格ながら筐体の大部分がプラスチックである点には“安っぽさ”を感じると指摘しており、フルアルミ機のような高級感を求める人には物足りない可能性があります。
つまりG512 Xは、「全部アナログでなくていい。必要なところだけ速ければいい」という人にとって、過不足のない合理的な選択肢だと言えます。
ロジクールG 2026新世代としての位置づけ
G512 Xの登場は、ロジクールGが2026年に進める「入力遅延の徹底排除」という流れの一部です。同社は同時期に、マウスのメインクリックから物理接点をなくした新機構「HITS」を搭載するフラッグシップマウス「G PRO X2 SUPERSTRIKE」を投入しています。キーボード側のTMRセンサー+8,000Hz(0.125ms)と、マウス側の物理接点レスという2つの挑戦は、有線・無線を問わず遅延ゼロの入力環境を目指す同社の姿勢で一貫しています。デバイスを揃えてエコシステムとして組みたい人にとって、本機はその一角として収まりが良いモデルです。
どんな人におすすめか
G512 Xは、次のような方に向いています。
全キーアナログは要らない現実派のFPSプレイヤー
ストッピングや細かい切り返しでラピッドトリガーやSOCDが効くのは、結局WASD周辺だけ。そこにだけTMRセンサーを集中させた本機は、必要十分なアナログ性能を3万円台で手に入れたい人に最適です。
ゲームと長時間タイピングを1台で兼ねたい人
フルアナログ機の“底打ち感のなさ”が苦手な人にとって、右半分にメカニカルとPBTキーキャップが残るのは利点です。とくに98はテンキーがあるため、表計算や事務作業の生産性を落とさずに、終業後はラピッドトリガーでゲーム、という使い分けができます。
カスタマイズに興味はあるが工具を持っていない人
脚が引き抜き工具を兼ね、予備スイッチは本体内に収納、交換後はボタン一つで認識。ハンダ付け不要でSAPPリングまで試せる本機は、自作キーボードの世界へ踏み込む前の“入り口”としても魅力的です。
よくある質問(Q&A)
- QG512 X 75と98の性能差はありますか?
- A
センサー・ポーリングレート・キー機構は完全に同一です。違いはレイアウト(テンキーの有無)とサイズ・重量・価格だけなので、ゲーム性能で選ぶ必要はありません。
- Qアナログスイッチは別売りですか?
- A
いいえ、交換用の磁気アナログスイッチ9個が同梱されています。標準は全キーメカニカルで、必要なキーだけ自分で差し替える方式です。
- Q全部のキーをアナログにできますか?
- A
できません。TMRセンサーは左手側の限定エリア(75は計41カ所)にのみ搭載されており、テンキーなど一部はメカニカル専用です。
- QラピッドトリガーやSOCDに対応していますか?
- A
対応しています。G HUBで作動点を0.1mm刻みに調整でき、SOCD(Key Priority)はラピッドトリガーと併用も可能です。
- QMacでも使えますか?
- A
macOS 12以上に対応しています。ただし接続は有線USBのみで、無線・Bluetoothには対応していません。
まとめ


G512 Xは、「ラピッドトリガー対応キーボードは全キーアナログである必要があるのか?」という問いに、“必要なキーだけ交換式”という形で「否」と答えた製品です。フルアナログ機の万能さとは違う、合理性に振り切った設計が光ります。
- デュアルスワップ機構:メカニカルと磁気アナログを1枚の基板で混在。必要なキーだけ付け替え可能
- 高精度なTMRセンサー:左手側に集中搭載し、0.1mm刻みの作動点・ラピトリ・SOCDに対応
- 75と98の2択:性能は同一、テンキーの有無とサイズで選ぶだけ
- 正直な注意点:接続は有線のみ、アナログ化は左手側限定、筐体は樹脂中心で高級感は控えめ
価格は3万円台と安くはありませんが、「全部アナログでなくていい。要所だけ速ければいい」という現実的なニーズに、過不足なく応えてくれる一台です。
現時点での評価
現時点で公開されているスペックから点数をつけるなら、こんな印象です。
- 打鍵・ビルド品質:★★★★☆ 4.0(PBTキーキャップとガスケットマウント、ただし筐体は樹脂中心)
- カスタマイズ性:★★★★★ 5.0(デュアルスワップ・0.1mm作動点・SAPPリングの自由度)
- 競技適性:★★★★☆ 4.5(TMRセンサー・8,000Hz・SOCD対応)
- 汎用性:★★★☆☆ 3.5(2レイアウト展開は強みだが有線のみ・アナログは左手側限定)
- コスパ:★★★☆☆ 3.5(32,780円/36,080円。最新機構を3万円台に収めた一方で高級感は控えめ)
- 総合:★★★★☆ 4.0
私自身は普段Mac純正キーボードを使っていてキーボードにこだわりが強いタイプではありませんが、ロジクールGのマウス(G304・G309)を長年愛用してきた立場として、本機の「必要なキーだけアナログ化する」という割り切りには納得感がありました。今は手元にないため各メディアの実機評価を読み込んだうえでの判断になりますが、フルアナログ機の価格や癖に二の足を踏んでいた人ほど、店頭で一度この交換式の手軽さを確かめてみてください。

