完全ワイヤレスイヤホンには、誰もが知っていて誰も口にしない寿命があります。バッテリーです。私自身、SonyのWFシリーズをXM4からXM6まで3世代使ってきましたが、買い替えの引き金は音質より先に「電池のへたり」でした。充電式の宿命として、2〜3年で1日持たなくなっていく。それが当たり前でした。
その当たり前に正面から手を入れてきたのが、ゼンハイザーが2026年9月3日——本日発売する「MOMENTUM True Wireless 5」(以下MTW5)です。フラッグシップTWSとして異例の、ユーザー自身によるバッテリー交換に対応。イヤホン本体もケースも、電池を入れ替えて使い続けられます。
価格は想定売価で税込49,940円。大幅な機能追加にもかかわらず、前作MTW4の発売時と同額に据え置かれました。一部専門店では4万円台半ばの予約価格も出ています。
この記事では、スペックの整理とMTW4からの変更点、そしてaptX LosslessやLE Audioといった「対応表の読み方に注意がいる部分」までまとめます。価格はすべて税込、2026年8月末の執筆時点で確認したものです。
製品スペック一覧
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 製品名 | Sennheiser MOMENTUM True Wireless 5 |
| 発売日 | 2026年9月3日(予約開始は8月20日) |
| 価格帯 | オープン価格(想定売価 税込49,940円) |
| ドライバー | 7mm TrueResponseダイナミック |
| 再生周波数帯域 | 5Hz〜21kHz |
| ノイズキャンセリング | ハイブリッド・アダプティブANC(風切り音低減モード付き) |
| 外音取り込み | 対応(アプリで調整可) |
| Bluetooth | 6.0(Class 1) |
| 対応コーデック | SBC/AAC/aptX/aptX Adaptive/aptX Lossless(最大24bit/96kHz) |
| LE Audio・Auracast | ハードウェア対応(発売時点では未有効。将来のアップデートで解放予定) |
| マルチポイント | 対応 |
| 空間オーディオ | Dolby Atmos+ヘッドトラッキング(同社TWS初) |
| バッテリー(本体) | 最大12時間(ANCオフ)/約6時間(ANCオン) |
| バッテリー(ケース込み) | 最大40時間 |
| 急速充電 | 8分の充電で約1時間再生 |
| 充電方式 | USB-C/Qiワイヤレス充電 |
| バッテリー交換 | ユーザー自身で交換可能(本体72mAh・ケース760mAh) |
| 防塵防水 | IP54 |
| 質量 | 片側約7g(イヤホン2基+ケースで約62g) |
| アプリ | Smart Control Plus(8バンドEQ・フィッティングテスト等) |
| カラー | 国内一般流通はグラファイト/クリームの2色 |
単体12時間・ケース込み40時間という持続は、ANC搭載のフラッグシップ帯では頭ひとつ抜けた数字です。8分で1時間ぶんという急速充電も合わせ、電池まわりを今回の主戦場にしてきたことがスペック表からも読み取れます。
細かいところでは、外すと自動で一時停止するSmart Pause、2台同時接続のマルチポイントと、仕事と音楽を行き来する使い方への目配りも一通り揃っています。防塵防水はIP54なので、通勤や小雨、ジムの汗までは守備範囲。水泳は対象外という、この価格帯の標準的な線引きです。
「電池が換えられる」が最大の事件
TWSは構造上、修理よりも買い替えが前提の製品でした。小さな筐体に電池を接着で詰め込むため、ヘタったら製品ごと寿命。環境負荷の面でも、5万円クラスを2〜3年で使い捨てる心理的な抵抗の面でも、ずっと引っかかりのあるジャンルだったと思います。
MTW5はここに踏み込みました。イヤホン本体の72mAhセルと、ケースの760mAhセルの両方がユーザー自身で交換できる設計です。海外メディアが「大きなブレークスルー」と評したのもうなずけます。大手ブランドのフラッグシップTWSでこれをやった例は、ほとんど記憶にありません。
現実的な意味は2つあります。ひとつは寿命の主導権がユーザーに戻ること。電池がへたっても、本体を捨てずに済む道ができました。もうひとつは中古・長期利用の価値が変わること。「TWSは消耗品」という前提で組まれてきた買い替えサイクルに、一石を投じる仕様です。5万円を2〜3年で償却する計算と、電池代を足しながら5年使う計算とでは、フラッグシップの意味がまるで違ってきます。
一方で、交換用バッテリーの国内価格や入手性、交換手順の難易度といった運用面の詳細は、発売時点ではまだ情報が出そろっていません。この仕組みが絵に描いた餅にならないかは、発売後の続報で確かめたいところです。
MTW4から何が変わったか
前作MTW4(2024年発売)からの差分を並べます。
- バッテリー持続が大幅増: 単体7.5時間→12時間、ケース込み30時間→40時間。数字の伸び方としては近年のTWSで最大級です
- バッテリー交換対応: 前述の通り新規対応。MTW4にはありませんでした
- Bluetooth 5.4→6.0: 新世代スタックへ移行
- Dolby Atmos+ヘッドトラッキング: ゼンハイザーのTWSとして初搭載
- イコライザーが5バンド→8バンド: アプリでの追い込みの自由度が向上
- 形状の刷新: 耳型データの大規模解析で再設計し、固定用フィンを廃止。比較テストでは73%が「前モデルよりフィットする」と回答したとされます
- 充電ケースの小型化: 横長の箱型から縦長の薄型へ。表面のファブリック素材は廃止されました
- 音のチューニング変更: 中域の押し出しを抑え、低域は輪郭重視に、12kHz帯を持ち上げて抜け感を強化——という方向性が国内発表時に説明されています
通話まわりも作り直されています。複数のマイクに骨伝導系のセンサーを重ね、AIアルゴリズムで話者の声だけを抽き出す方式へ刷新。ANCには風の強い屋外で効く風切り音低減モードが加わり、「シリーズ最強のノイズキャンセリング」というのがメーカーの触れ込みです。この実力値は第三者のじっくりレビュー待ちですが、弱点として指摘されがちだった屋外通話に手を入れてきたのは順当な進化だと思います。
これだけ変えて、価格はMTW4の発売時と同じ49,940円。円安局面の続いたオーディオ輸入品で据え置きは立派ですが、見方を変えれば「4は値引き分だけ安く買える」わけで、新旧の価格差をどう見るかは悩みどころになりそうです。
コーデック対応表は、2つの但し書きつきで読む
スペック表のコーデック欄は本機の華ですが、そのまま鵜呑みにできない部分が2つあります。
ひとつはaptX Losslessの条件です。CD品質のロスレス伝送という触れ込みですが、これを活かすには送り出し側、つまりスマートフォンがSnapdragon Sound(aptX Lossless)に対応している必要があります。iPhoneはAACまで、GoogleのPixelもこの系統には非対応なので、実際に恩恵を受けられる組み合わせは限られます。自分のスマホが対応しているかを、購入前に必ず確認してください。
もうひとつはLE Audio/Auracastの「まだ」です。Bluetooth 6.0対応ながら、LE Audio系の機能は発売時点では有効化されておらず、将来のファームウェア更新待ちとアナウンスされています。「対応」の一語にも、今使えるものと約束手形が混ざっているわけです。
このあたり、SBC・AAC・aptX系・LC3が何を意味してどう違うのかは、以下の解説で仕組みから整理しています。コーデック表の読み方を一度押さえておけば、この手の「対応表の罠」にも惑わされずに済むはずです。
競合が値下がる中で、フル価格の勝負
発売日の市場環境は、MTW5にとってなかなか厳しいものがあります。
| モデル | 実売の目安 | 状況 |
|---|---|---|
| MOMENTUM True Wireless 5 | 49,940円(専門店で4.5万円前後の予約例も) | 本日発売 |
| Sony WF-1000XM6 | 3.6万〜4万円 | 発売半年で公式値下げ済み |
| Bose QuietComfort Ultra Earbuds(第2世代) | 3万円前後 | セール常連 |
| Technics EAH-AZ100 | 3万円強 | 発売から時間が経ち下落 |
| Apple AirPods Pro 3 | 3.7万〜4.3万円 | セール時3万円台 |
ライバルの実売が軒並み3万円台へ下りた局面に、定価のフラッグシップが飛び込む構図です。とくにSony WF-1000XM6は発売半年で公式に値下げされ(44,550円→39,600円)、実売はさらに下の3万円台半ばまで来ています。音とANCの実力勝負は各媒体のじっくりレビュー待ちですが、価格の土俵では約1万〜2万円のハンデを背負ってのスタートになります。
それでもMTW5にしかない札が、単体12時間のスタミナと電池交換、そしてaptX Lossless対応(条件付き)です。つまり「長く・自分の環境で最良の音を」という軸で選ぶ人ほど、価格差の説明がつきやすい。逆に、ANCと価格のバランス最優先ならXM6やBoseの値下がり品が強敵になります。
ちなみに予算をぐっと抑えるなら、ミドル帯の充実ぶりも近年は侮れません。当サイトではSoundcoreの上位2機種を比較しています。フラッグシップとの差額で何が変わるかの物差しにどうぞ。
気になるポイント
- ANCオン時は約6時間: 単体12時間はANCオフの数字です。ANC常用派の実働は半分程度と見ておくのが現実的です
- aptX Losslessを活かせるスマホが限られる: iPhone・Pixelでは本領を発揮できません。対応スマホをお持ちかどうかで、本機の価値は結構変わります
- LE Audio/Auracastは発売時未有効: ファームウェア更新待ちの約束手形です。Auracast目当ての早期購入は勧めません
- 交換用バッテリーの運用詳細が未知数: 交換部品の価格・入手性・作業難度はまだ情報が薄く、看板機能の実用性は続報待ちです
- 競合が値下がり局面: XM6やBoseの実売との差額は最大2万円弱。音の好み以前に、予算面での納得感が問われます
- 国内の一般流通色は2色のみ: グローバル5色に対し、国内一般流通はグラファイトとクリーム。限定色狙いは販路の確認が必要です
どんな人に向くか
1台を長く使い倒したい人
電池交換対応と単体12時間は、「2〜3年で買い替え」の前提を崩しにきた仕様です。TWSの使い捨て感に抵抗があった人にとって、5万円の投資理由がいちばん立てやすいのが本機だと思います。保証期間の外側まで見据えて買えるフラッグシップTWSは、現状ほとんど本機だけと言っていい状況です。
Snapdragon Sound対応スマホのユーザー
aptX Losslessをワイヤレスで受けられる数少ないフラッグシップです。対応スマホを持っているなら、この組み合わせを活かさない手はありません。
出張・移動が多い長時間リスナー
ケース込み40時間と8分充電の組み合わせは、充電環境から離れる時間が長い人ほど効きます。機内や新幹線でANCを回し続けても、帰り道の電池残量に怯える場面はぐっと減るはずです。マルチポイントでPCとスマホを行き来する仕事用途にも噛み合います。
よくある質問(FAQ)
- Q発売日と価格は?
- A
2026年9月3日発売で、想定売価は税込49,940円です。専門店では4万円台半ばの予約価格も確認されています。
- Q本当に自分でバッテリー交換できますか?
- A
イヤホン本体(72mAh)とケース(760mAh)の両方がユーザー交換可能とメーカーが公表しています。交換部品の国内価格や手順の詳細は発売時点では未公表です。
- QiPhoneで使う意味はありますか?
- A
あります。ただしコーデックはAAC接続となり、aptX Losslessの恩恵は受けられません。ANC・装着感・アプリ機能は問題なく使えます。
- QMTW4から買い替えるべきですか?
- A
電池持ちと電池交換に価値を感じるかが分かれ目です。音質傾向の変更(中域控えめ・高域強調)は好みが分かれるため、可能なら試聴をおすすめします。
- Qワイヤレス充電には対応していますか?
- A
対応です。Qi充電器に置くだけで充電でき、USB-Cの有線充電も併用できます。
まとめ:使い捨てないフラッグシップ、という新しい選択肢
MTW5の見どころを一言に絞るなら、音の進化よりも「所有の仕方」を変えにきたことです。電池交換と価格据え置きという2枚看板は、スペック表の1行ずつよりも、3年後の満足度に効いてくるタイプの進化だと思います。
- ユーザー交換式バッテリー(本体72mAh/ケース760mAh)でTWSの寿命問題に正面から回答
- 単体12時間・ケース込み40時間はフラッグシップANC機で最長級
- Dolby Atmos+ヘッドトラッキング、8バンドEQ、フィンレス新形状と機能面も総改修
- 価格はMTW4から据え置きの49,940円。ただし競合は値下がり局面で、実売差は要検討
- aptX Losslessは対応スマホ限定、LE Audioはアップデート待ちという但し書きつき
現時点での評価
実機は未聴のため、公開スペックと発表時の情報をもとにした現時点の採点です。
- 音質チューニング:★★★★☆ 4.0(中域抑制・12kHz強調の新方向。実聴評価は今後)
- 機能・接続:★★★★☆ 4.5(Atmos・BT6.0・マルチポイント・Qi対応)
- バッテリー:★★★★★ 5.0(単体12h・ケース込40h+交換式という比類なさ)
- 装着・デザイン:★★★★☆ 4.0(フィンレス新形状・73%がフィット向上と回答)
- コスパ:★★★☆☆ 3.5(据え置き価格だが競合値下がり局面)
- 総合:★★★★☆ 4.0
私自身、XM4からXM6まで「電池がへたったら世代交代」を3回繰り返してきた身として、この方向性には素直に拍手を送りたい気持ちです。発売日を迎えた今日から店頭試聴も本格化するはずなので、気になる方はまず装着感と外音取り込みの自然さ、そしてご自身のスマホのコーデック対応を確かめたうえで、じっくり検討してみてください。




