ノイズキャンセリングヘッドホンを選ぶとき、私がいつも引っかかるのは音質でも価格でもなく、耳が蒸れることでした。密閉型を長時間つけていると、夏場はもちろん、冬でも1時間を超えるあたりから耳まわりが気になってきます。かといって開放型にすると、今度は周囲の音がそのまま入ってくる。どちらかを諦めるしかない、というのが長年の相場でした。
オーディオテクニカが2026年9月18日に発売する ATH-AL5NC は、その相場に手を入れてきた製品です。開放型の構造にアクティブノイズキャンセリングを載せた、同社初のモデル。価格はオープン価格で、公式直販は税込39,600円(税抜36,000円)です。
面白いのは、メーカー自身が「遮音する」とは一言も言っていないところでした。公式の説明は「開放型ヘッドホンの自然な外の音の聞こえかたはそのままに、エアコン音や走行ノイズなど低〜中音域の不要な雑音だけを的確に抑制します」というもの。消すのではなく、間引く。コンセプトコピーも「呼吸するノイズキャンセリング」です。
この記事では、ATH-AL5NC が実際に何をやろうとしている製品なのか、そして同社の既存モデルとどう並ぶのかを整理します。ぜひ最後までご覧ください。
ATH-AL5NC の主なスペック
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 発売日 | 2026年9月18日 |
| 価格 | オープン価格(公式直販 税込39,600円/税抜36,000円) |
| 型式 | オープンエアーダイナミック型(開放型) |
| ドライバー | φ53mm |
| 再生周波数帯域 | 20〜40,000Hz |
| インピーダンス | 52Ω |
| 出力音圧レベル | 103dB/mW |
| 質量 | 約240g |
| Bluetooth | Ver.5.3準拠 |
| 対応コーデック | LDAC / AAC / SBC |
| マルチポイント | 対応(2台同時) |
| 連続再生 | ANC ON 最大約50時間/OFF 最大約75時間 |
| スタンドアローン(ANCのみ) | Home 最大約100時間/Airplane 約80時間 |
| 充電 | 約3.5時間(USB Type-C)/15分充電で約8時間再生(ANC OFF時) |
| 有線接続 | φ3.5mm 4極・1.2mリモコン付きコード付属。有線時もANC動作 |
LDAC 対応で最大96kHz/24bit の伝送に対応します。日本オーディオ協会のハイレゾワイヤレスロゴも取得しました。コーデックが音質にどう関わるのかは、別途まとめています。

「遮音しないノイズキャンセリング」が狙っているもの
密閉型のノイズキャンセリングは、二段構えで成り立っています。まずハウジングとイヤーパッドで物理的に外の音をふさぎ、そのうえで残った騒音を逆位相の音で打ち消す。物理的な遮音が土台にあるから、逆位相処理が効くという構造です。
開放型にはその土台がありません。ハウジングが開いている以上、外の音は素通りします。だから普通なら、そこにANCを載せても効果は限定的になります。

オーディオテクニカはこれを弱点として扱わず、性質として受け入れたうえで設計しています。狙い撃つのは低〜中音域だけ。エアコンの運転音、電車や車の走行音、空調のうなり——いずれも定常的で低い帯域に集まる音です。一方、人の声やアナウンス、自転車のベルといった高い帯域の音は、そのまま耳に届きます。
公式はこれを「第3の選択肢」と位置づけています。密閉型ANCの圧迫感や蒸れからは解放され、完全ワイヤレスイヤホンで起きがちな耳の疲れも避けられる、という説明です。低側圧設計と組み合わせて「開放感のあるノイズキャンセリング」と表現しています。
押さえておきたい前提
この製品は静寂を作りません。図書館のような静けさを求めて買うと、確実に期待を外します。公式が約束しているのは「不要な雑音の低減」であって「遮音」ではありません。カフェで隣の会話を消したい、飛行機で完全に音を断ちたい——そういう用途なら、素直に密閉型を選ぶべきです。
なお、ANCの方式(フィードフォワードかフィードバックかハイブリッドか)、収音マイクの数と配置、ノイズ低減量のdB値は、いずれも公表されていません。同社の密閉型 ATH-S300BT が「ハイブリッドデジタルノイズキャンセリング技術、左右ハウジング内外に2つの収音マイク」と明記しているのと対照的です。ここは推測で埋めず、実機のレビューを待ちたいところです。
注目したい4つのポイント
スタンドアローンで最大約100時間動く
Bluetooth をつながず、ANCだけを単体で動かすモードを持っています。Home モードで最大約100時間、Airplane モードで約80時間。音楽を聴かずに、静けさだけを使う運転です。
デスクワーク中に空調の音だけ抑えたい、移動中に耳栓代わりにしたい——こういう使い方をするなら、この数字はかなり効きます。しかもこのモードではデバイス未接続時のオートパワーオフが作動しません。勝手に切れないので、耳栓として使っている最中に静けさが戻ってくる、ということが起きません。
有線接続でもノイズキャンセリングが効く
付属の1.2mコードでつなぐだけで、ANCを効かせたまま再生できます。地味ですが、これは同社の密閉型 ATH-S300BT にはない挙動です(S300BT は有線接続時にアンビエンスコントロールがOFFになります)。
機内エンターテインメントの有線端子につないだまま、ANCを使いたい場面を想定した設計でしょう。フライトアダプターこそ付属しませんが、Airplane モードという名前のNCモードがあるあたり、想定シーンは分かりやすいです。
音漏れ抑制モードがある
開放型の宿命は音漏れです。ATH-AL5NC には、外へ漏れやすいシャカシャカした帯域を抑えるモードが用意されています。
ただし公式が自分で注記しているとおり、完全に音漏れを防ぐものではありません。当該帯域を抑制するため、通常時とは聴こえ方が変わります。電車で隣の人に気を遣う場面のための機能であって、常用するものではない、と理解しておくのが正確です。
サウンドスケープ機能が用意されている
専用アプリ「Connect」で、オーディオテクニカのマイクロホンで収録した自然音、ヒーリングサウンド、マスキングノイズを再生できます。開放型の抜けの良い響きと組み合わせる前提の機能で、ANCを併用すれば生活音だけを抑えられる、という説明です。
マイクメーカーでもある同社らしい機能で、これは他社が真似しにくいところだと思います。アプリはほかに、グラフィックEQとパラメトリックEQの切り替え、音量ステップを16→32→64段階に変更、置き忘れアラート、最後に接続が切れた位置の地図表示なども備えます。
気になるポイント
同社の開放型ワイヤレス ATH-HL7BT は19,800円です。ATH-AL5NC は約2倍の価格になります。ドライバーは同じφ53mmのオープンエアーダイナミック型で、増えたのはANCとバッテリー(20時間→50/75時間)、LDAC対応、スイーベル機構あたり。この差額をどう見るかが、購入判断の核心になります。
外音取り込み(ヒアスルー)機能の有無が公表されていません。開放型なので構造的に外音は聞こえますが、マイクを使った能動的な取り込み機能があるかは不明です。アプリのキーアサインに「アンビエンスコントロール切り替え」という項目名だけは登場しますが、中身の定義がありません。
カラー展開が公式に示されていません。JANコードは1本のみで、色名の表記もなし。価格.com は便宜上「ブラック」と表記していますが、これはメーカー公称ではありません。
そしてイヤーパッドの素材も未公表です。別売の交換イヤパッド「HP-AL5NC」が設定されていることだけが分かっています。
どんな人におすすめか
- 長時間ヘッドホンをつけていたい人: 開放型なので熱がこもりにくく、低側圧設計で締め付けも抑えられています
- 在宅ワークで空調音だけ消したい人: スタンドアローン最大約100時間は、この用途にぴったりはまります
- 周囲の呼びかけに気づきたい人: 高い帯域は通すので、家族やチャイムの音は聞こえます
- LDACでワイヤレスを使いたい人: 同社のANC搭載機では初のLDAC対応です
- 静寂が欲しい人: 向きません。密閉型のANCヘッドホンを選んでください
よくある質問(FAQ)
- Q開放型なのにノイズキャンセリングは効くのですか?
- A
エアコン音や走行ノイズなど低〜中音域の雑音には効きます。ただし密閉型のような遮音はしないため、人の声など高い帯域の音はそのまま聞こえます。
- Q価格はいくらですか?
- A
希望小売価格はオープン価格で、公式直販は税込39,600円(税抜36,000円)です。量販店の予約価格も同額で並んでいます。
- QATH-HL7BT との違いは?
- A
ドライバーは同じφ53mmですが、ATH-AL5NC はANC搭載、LDAC対応、再生時間が20時間から50/75時間へ、スイーベル機構つきになります。価格は19,800円と39,600円です。
- Q音漏れはしませんか?
- A
開放型なので音漏れはします。音漏れ抑制モードは用意されていますが、公式も「完全に防ぐものではない」と注記しています。
- Q有線でも使えますか?
- A
使えます。付属のφ3.5mm 4極コードで接続でき、有線時もノイズキャンセリングが動作します。
まとめ:静けさを作るのではなく、雑音を間引くヘッドホン
ATH-AL5NC は、密閉型ANCの代わりになる製品ではありません。密閉型を選べなかった人のための製品です。蒸れる、圧迫感がある、周囲の音が聞こえなくなるのが不安——そういう理由でANCヘッドホンを諦めてきた人に、はじめて選択肢が回ってきた、という位置づけになります。
要点を整理します。
- 開放型に同社初のANCを搭載。狙うのは低〜中音域の定常的な雑音だけ
- 遮音はしない。人の声やアナウンスは通る設計で、メーカーもそう説明している
- スタンドアローンで最大約100時間。音楽なしでANCだけ使う運転ができる
- 有線接続時もANCが動く。同社の密閉型 S300BT にはない挙動
- ANCの方式・マイク数・低減量はすべて未公表。実機レビューを待ちたい
私が普段使っているのは密閉型の完全ワイヤレスで、音質にも遮音にも不満はないのですが、唯一つきまとうのが長時間使ったときの耳の中の閉塞感でした。その一点だけのために、開放型と密閉型を場面で使い分けてきた人は少なくないはずです。その使い分けを1台に畳もうとしている製品だと考えると、39,600円という値付けにも納得がいきます。発売は9月18日です。気になった方はぜひチェックしてみてください。
項目別評価
同社初の挑戦という文脈を踏まえたうえで、現時点の公表情報から採点しました。
- 音質:★★★★☆ 4.5(φ53mmオープンエアー、20〜40,000Hz、LDACで96kHz/24bit)
- ノイズキャンセリング:★★★☆☆ 3.5(低〜中音域限定。方式・低減量とも非公表)
- バッテリー:★★★★★ 5.0(ANC ON 50時間/OFF 75時間/スタンドアローン最大約100時間)
- 装着性:★★★★☆ 4.5(240g、低側圧のエアリー設計、開放型で蒸れにくい)
- コスパ:★★★☆☆ 3.5(39,600円。ANCなしの同社 ATH-HL7BT が19,800円)
- 総合:★★★★☆ 4.0


