私自身、メインマシンはMacBook Pro(M2 Pro)なので、CPUとGPUがひとつの大きなメモリを分け合う「ユニファイドメモリ」の便利さは日々実感しています。その考え方をWindowsのデスクトップに、しかも128GBという容量で持ち込んだのが、マウスコンピューターの「DAIV CX-A9A60」です。クリエイター向けブランドDAIVとしては初のミニPCで、2026年8月24日に発売されました。
価格は税込949,800円。約95万円のミニPCと聞くと身構えますが、狙いは明確で、画像生成や大規模言語モデル(LLM)をクラウドに頼らず手元で動かす「ローカルAI」に振り切った1台です。
ただ、調べていくと気になることがありました。中身がほぼ同じ構成の他社ミニPCが、23万円も安く売られているのです。さらに発売の翌日には、AppleがMac Studioの新型を1円違わぬ同価格で発表するという偶然まで重なりました。
この記事では、DAIV CX-A9A60のスペックを整理したうえで、この価格差が何の値段なのかを掘り下げます。価格はすべて税込、2026年8月30日時点で確認したものです。
製品スペック一覧
構成は1パターンのみで、メモリやストレージのカスタマイズ枠は用意されていません。
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 製品名 | DAIV CX-A9A60(型番: CXA9A60BSAGEW101DEC) |
| 発売日 | 2026年8月24日 |
| 価格 | 税込949,800円(マウスコンピューター公式直販) |
| CPU | AMD Ryzen AI Max+ 395(16コア32スレッド、最大5.1GHz) |
| GPU | AMD Radeon 8060S(CPU内蔵) |
| NPU | AMD XDNA 2(チップ仕様で最大50TOPS) |
| メモリ | 128GB LPDDR5X-8000(オンボード・増設不可) |
| グラフィックス割当 | メモリのうち最大96GBをVRAMとして割当可能 |
| ストレージ | 2TB NVMe SSD(WD_BLACK SN850X・Gen4)/M.2スロット計2基(空き1) |
| USB | USB4(40Gbps)×4、USB 3.2 Gen2×3、USB 2.0×2 |
| 映像出力 | DisplayPort×1、HDMI×1、USB4経由の出力にも対応(最大4画面) |
| ネットワーク | 2.5G LAN、Wi-Fi 7、Bluetooth 5 |
| カードリーダー | SDカード(UHS-II対応) |
| サイズ・重量 | 幅78.5×奥行198×高さ205mm(突起物含む)・約1.98kg |
| 電源 | 250W ACアダプタ(外付け) |
| OS | Windows 11 Pro |
| 保証 | 3年間センドバック修理保証・24時間365日電話サポート |
縦置きの本体は約2kgで、500mlペットボトル4本分ほどの重さに収まっています。電源が外付けの250Wアダプタなので、設置時はその置き場所も考えておきたいところです。
「DAIVブランド初のミニPC」が意味するもの
DAIVは、マウスコンピューターが動画編集や3DCG、写真現像といったクリエイター向けに展開してきたブランドです。これまでの主力はタワー型デスクトップとノートPCで、手のひらに近いサイズのミニPCは今回が初めてになります。
背景には、Ryzen AI Max+ 395(開発コード名Strix Halo)を搭載する小型機が2026年に入って相次いで登場している市場の流れがあります。ただしその担い手は海外のミニPC専業メーカーが中心で、国内大手BTOメーカーの参入例はまだ多くありません。マウスコンピューターは6月の事業戦略発表会の時点でNUC型の新ライン「mouse CA」と並べて本機を予告しており、小型筐体への展開は会社としての既定路線だったことがうかがえます。
その第1弾が、エントリー機ではなく95万円のAI特化機だったというのが面白いところです。メーカーの説明では、想定用途はローカルLLMやRAG環境の構築、AIを活用した画像生成、動画編集、3DCG制作、ソフトウェア開発。社内資料や設計データのような機密性の高い情報を、クラウドに出さずローカルで扱いたいユーザーを名指ししています。
つまりこれは「小さくて安いPC」ではなく、タワー型ワークステーションの置き換えを狙った小型機です。販売はマウスの直販サイトのみで、出荷は決済から約14営業日。量販店でふらっと買う製品ではなく、仕事の道具として指名買いされる前提の売り方になっています。
128GBの「ユニファイドメモリ」は何がうれしいのか
本機の核心はメモリです。128GBのLPDDR5X-8000をCPUとGPUが共有し、そのうち最大96GBをグラフィックス用(VRAM)に割り当てられます。
これがローカルAIでなぜ効くのか。生成AIのモデルは、実行時にモデル全体をVRAMに載せる必要があります。ところが一般的なゲーミングGPUのVRAMは16〜24GB程度で、大きなモデルはそもそも読み込めません。載りきらない分をメインメモリに逃がす方法もありますが、速度は大きく落ちます。
ユニファイドメモリなら、この「VRAMの壁」の位置が大きく変わります。96GBという割当上限は、コンシューマー向け最上位GPUのVRAMの3〜4倍に相当する容量です。単体GPUでは分割やクラウド利用を検討するようなサイズのモデルでも、手元の1台で扱える余地が生まれます。メーカーが「大規模言語モデルや生成AIもクラウド環境を利用せず、ローカル環境で実行できる」とうたう根拠は、まさにこの割当上限です。
一方で注意点もあります。128GB全部をVRAMにできるわけではなく、上限は96GB。残りはOSとアプリのために確保されます。また、実際にどのサイズのモデルが毎秒何トークンで動くかといった実測データは、発売から1週間の時点でまだ公開されていません。ベンチマークの検証はこれからの製品です。
もうひとつ実務的な利点は、AI以外の作業との同居です。動画編集や3DCGのようにメインメモリを食う作業と、VRAMを食うAI処理は、従来は別々の予算——大容量メインメモリと高VRAMの単体GPU——で賄う必要がありました。共有方式なら128GBというひとつの器を作業内容に応じて配分し直せるので、「編集マシン」と「AIマシン」を1台に束ねられます。幅78.5mmの筐体にワークステーション級の役割を畳み込めた理由も、この設計に依るところが大きいでしょう。
なおNPUとしてはAMD XDNA 2(チップ仕様で最大50TOPS)を備え、本機はCopilot+ PCの要件も満たしています。とはいえ、95万円のこの機械の主戦場がWindows標準のAI機能でないことは明らかで、NPUは添え物。主役はあくまでGPUと128GBのメモリです。
ちなみに、この「CPUとGPUがメモリを分け合う」設計はAppleシリコンのMacと同じ考え方です。私自身、M2 ProのMacBookでメモリ配分を気にせず作業できる快適さに慣れてしまったので、Windows側にこの選択肢が増えたこと自体を素直に歓迎しています。
同じチップのミニPCと、何が23万円違うのか
ここからが本題です。Ryzen AI Max+ 395と128GBメモリの組み合わせは、実はDAIVの専売特許ではありません。同じ構成のミニPCを並べてみます。
| 製品 | 構成 | 価格(税込) | 販売・サポート |
|---|---|---|---|
| DAIV CX-A9A60 | Ryzen AI Max+ 395/128GB/2TB | 949,800円 | 国内直販・3年保証・24時間365日電話 |
| GMKtec EVO-X2 | Ryzen AI Max+ 395/128GB/2TB | 718,000円前後 | 中国メーカー・国内代理店経由 |
| MINIX ER939-AI | Ryzen AI Max+ 395/128GB/2TB | 549,800円(売り切れ) | 国内正規代理店(リンクス) |
CPU・GPU・メモリ容量・ストレージ容量という骨格は同じで、価格は最大40万円開いています。GMKtec EVO-X2との差でも約23万円。チップの性能に払うお金はほぼ同じで、差額はそれ以外に払っていることになります。
では「それ以外」とは何か。DAIVの場合、はっきり形があるのは3年間のセンドバック修理保証と、24時間365日の国内電話サポートです。加えて、国内メーカーとしての検証や法人向けの調達のしやすさ、故障時に日本語でやり取りが完結する安心感も含まれるでしょう。
これをどう評価するかは、使い方次第だと思います。個人の趣味でローカルAIを試すなら23万円差は重い。一方、業務で機密データを扱う環境として導入するなら、「止まったときに誰が助けてくれるか」への投資として説明がつく金額です。本機の価格は、性能ではなく運用の安心を上乗せした値付けと読むのが実態に近いでしょう。
発売翌日、Mac Studioが同じ949,800円で発表された
もうひとつ、タイミングの妙があります。本機の発売は8月24日。その翌日の8月25日に、AppleがM5 Max/M5 Ultraを搭載した新型Mac Studioを発表しました(発売は9月22日)。
そしてM5 Ultra搭載の入門構成(96GBユニファイドメモリ・1TB SSD)の価格が、税込949,800円。DAIV CX-A9A60と1円単位で同じです。
もちろん狙った価格合わせではなく偶然でしょうが、購入検討者にとっては無視できない比較対象になりました。整理すると、同じ予算で「メモリ128GB・ストレージ2TBのWindows機」と「メモリ96GB・ストレージ1TBのMac」が並んでいる構図です。容量の数字だけならDAIVに分があります。
ただ、この比較で本当に見るべきは容量よりもソフトウェアです。ローカルAIの世界では、Windows側はCUDAやROCm、DirectML系のツール群、Mac側はMetalやMLX系のツール群と、動くソフトの生態系がはっきり分かれています。使いたいAIツールがどちらのOSで快適に動くかを先に確認する。順番としてはそれが先で、価格の比較はその後です。
Macを常用する立場から見ても、ローカルAI周りはWindows側にしか出てこないツールや、Windowsでの動作報告が先行するツールが少なくありません。両方の生態系が意識されるようになった今、性格の違う2台が同じ値札で並んだのは象徴的な偶然だと思います。
気になるポイント
- メモリは増設できない: 128GBはオンボード実装で、購入後の増設・交換は不可。将来メモリ不足を感じても打つ手がありません。構成が1パターンしかないため、購入時に選ぶ余地もありません
- VRAMに使えるのは最大96GBまで: 「128GBフルでAIに使える」わけではない点は誤解しやすいところです
- 実測ベンチマークがまだない: 発売から1週間時点で、独立メディアの実機レビューやAI推論の実測値は確認できませんでした。柱になる数字が「チップの理論値」しかない段階です
- 冷却・動作音の情報が乏しい: 250Wの電力を約2kgの筐体で処理するため冷却は気になる部分ですが、ファン構成や騒音値の公表は確認できませんでした
- 買える場所が直販のみ: Amazonや量販店での取扱は確認できず、出荷まで約14営業日かかります。思い立ってすぐ届く製品ではありません
- 価格そのもの: 同構成の競合と比べて23万円以上高い値付けです。差額の中身(保証・サポート)に価値を感じるかが分かれ目になります
どんな人に向くか
機密データを扱う開発者・企業のAI検証環境として
クラウドに出せない社内文書や設計データでRAGやLLMを検証したい場合、96GBまでVRAMを割ける本機はローカル完結の受け皿になります。3年保証と24時間サポートは、業務導入の稟議でそのまま説明材料になるはずです。
タワー型を置きたくないクリエイター
動画編集や3DCGでメモリを大量に使う作業を、幅78.5mmの縦置き筐体に集約できます。USB4が4ポートあるので、外付けSSDやドックを含めた機材構成も組みやすい。4画面出力対応で、モニターを並べる作業環境にもそのまま入ります。
「国内サポート込みでStrix Haloが欲しい」人
Ryzen AI Max+ 395搭載機は海外メーカー製が中心で、保証やサポートに不安を感じて見送っていた人にとって、本機は数少ない国内メーカーの選択肢です。実際、比較表に挙げた最安のMINIX ER939-AIは調査時点で売り切れており、この構成を今すぐ確実に手配できる国内窓口は見た目ほど多くありません。価格差を「保険料」として飲めるなら、指名買いに値します。
よくある質問(FAQ)
- Qどのくらいの規模のLLMが動きますか?
- A
メモリのうち最大96GBをVRAMに割り当てられるため、単体GPU機では載らない大型モデルも視野に入りますが、モデル別の動作実績や速度の実測データは現時点で公開されていません。
- Qメモリやストレージは後から増やせますか?
- A
メモリは増設不可です。ストレージはM.2スロットが2基あり、1基空いているのでSSDの追加は可能です。
- Q安いGMKtec EVO-X2と性能は違うのですか?
- A
CPU・GPU・メモリ・ストレージ容量は同じ構成で、カタログ上の性能差はほぼありません。差は3年保証・24時間365日電話サポートといった国内メーカーの運用面です。
- QAmazonや家電量販店で買えますか?
- A
2026年8月30日時点ではマウスコンピューターの直販サイトのみで、Amazon.co.jpでの取扱は確認できませんでした。出荷は決済から約14営業日かかります。
- QMac Studioとどちらを選ぶべきですか?
- A
同じ949,800円でも、動くソフトの生態系がまったく別物です。使いたいAIツールや制作ソフトがどちらのOSで快適に動くかを確かめてから、価格を比べることをおすすめします。
まとめ:95万円は「128GBを安心して使う」ための値段
DAIV CX-A9A60は、Ryzen AI Max+ 395と128GBユニファイドメモリでローカルAIに振り切った、DAIVブランド初のミニPCです。
- メモリ128GB・最大96GBのVRAM割当で、単体GPUの容量制約を超えるローカルAI環境を1台に集約
- USB4×4、Wi-Fi 7、4画面出力と、仕事場の中心に据えられる接続性
- 同じチップ構成の競合より約23万円高く、差額の実体は3年保証と24時間365日の国内サポート
- メモリ増設不可・実測ベンチ未出・直販のみという、購入前に飲み込むべき条件も明確
チップの性能だけを最安で手に入れたい人には、正直、割高な選択でしょう。一方で「業務データを外に出さずAIを回したい、そして止まったら困る」という人にとっては、価格の中身が見えている分だけ判断しやすい製品だと感じます。
現時点での評価
実機レビューが出そろう前の段階なので、公開されているスペックと価格から現時点の印象を点数にしてみました。
- ローカルAI適性:★★★★★ 5.0(128GB統合メモリ・最大96GBのVRAM割当)
- 接続性:★★★★☆ 4.5(USB4×4・Wi-Fi 7・2.5G LAN・最大4画面)
- 拡張性:★★★☆☆ 3.0(M.2空き1はあるがメモリ増設不可)
- サポート体制:★★★★☆ 4.5(3年センドバック・24時間365日電話)
- コスパ:★★☆☆☆ 2.5(同構成の競合と約23万円差)
- 総合:★★★★☆ 4.0
私自身、ユニファイドメモリの快適さはMacで身をもって知っているだけに、Windows側で128GBをここまで割り切って積んだ1台が国内メーカーから出てきたのは、素直に心強い変化だと感じています。導入を検討する方は、まず自分のAIワークフローが必要とするメモリ量を洗い出したうえで、マウスの直販ページで最新の納期と価格をチェックしてみてください。

